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2011年06月29日

「牛乳はモー毒」なのか? 出典を巡って

最近、ふとしたきっかけで、「牛乳はモー毒」と主張するサイトをいくつか見た。
その多くに、共通した論調が見られた。

・厚生労働省も牛乳の過剰摂取と心の偏りの密接な関係に
 気がついたのか2002年(平成14年)度からは公立保育
 園の牛乳給食料を2001年(平成13年)度まで1日平均
 200mlから80mlに減量しました。なぜ減量したかは一切
 不問にしています。

・2000年(平成12年)5月厚生労働省は「健康日本21」と
 いう成人向けガイドラインを作成しました。成人向けの
 牛乳接種量を乳製品も含めて1日130mlと明記しています

の2点である。

しかも、共通して同じ論調が見える割には、誰一人出典を明らかにしていないというのもまた興味深い点である。

後者については、「健康日本21」というキーワードもあり、比較的探しやすいものだった。
具体的には、まとめを、
http://www1.mhlw.go.jp/topics/kenko21_11/pdf/b1.pdf
で見ることができる。
問題の箇所は、

> 目標値:牛乳・乳製品130g、豆類100g、緑黄色野菜120g以上
> 基準値:牛乳・乳製品107g、豆類76g、緑黄色野菜98g(平成9年国民栄養調査)

と書かれ、平成9年調査では牛乳・乳製品が107gしかないので、130g以上を目標に
しましょう……と明確な意図が感じられる。

これを、「牛乳は有害である」という文脈で、「牛乳接種量を乳製品も含めて1日130mlと明記しています」と記述するのは歪曲というものであろう。

さらには、

http://www.atela.zzw.jp/easyfree2/

では、

> 実は2002年から厚生労働省も牛乳と心の偏りの密接な関係に気づいたのか、
> 公立保育園の牛乳給食の量を1年前の200mlから80mlへ大幅に減少させ
> ました。また成人でも乳製品の量は130mlまでと定められました。

と、「130ml まで」と明らかな誤りが見られる。

http://blogs.yahoo.co.jp/barnabaseriko/27941456.html

には、(ただし本文ではなく、コメントのほう)
> 労省は牛乳の1日の摂取量を2000年に成人で乳製品を含め、130ml
> と大幅に減らしています。減らした理由も不問にして(牛乳はモー毒より)。

という記述も。
保育園給食の話との混同と思われるが、出典をあたれば、「増やそうとしている」
のはわかったものと思う。

また、

http://www.bea.hi-ho.ne.jp/yooln/shokuidogen-2.htm

に至っては、

> 一昨年5月、厚生省は「健康日本21」の中で「成人の場合、牛乳、乳製品を含めて、
> 130ml以上摂ることを目標とする」と明記しました。ところが現場は厚生省の基準以
> 上牛乳を摂っていて、中学校の生徒は牛乳だけで200mlも摂っています。乳製品全部
> で130mlなのに既に基準を破っています。

という表現もある。これなど、わざわざ出典をあたらなくても、この文章中だけで矛盾している。
130ml *以上* というのが基準なら、200ml は、基準合致なのだが?

一方で、前者の、「公立保育園の牛乳給食料を1日平均200mlから80mlに減量」に関しては、出典を見つけることはできなかった。

以上2つの論点に加えて、「平成15年の、学校給食における食事内容について」という厚生労働省通達を根拠に、「厚生労働省は学校給食に牛乳を出さなくてもいいと言っている」というものもあった。

たとえば、
http://mitomo.jp/img_server/co_img1/mitomo/file/c100.htm


さて、これも出典をあたってみよう。


学校給食における食事内容について
(15文科ス第121号 平成15年5月30日)
http://www.nise.go.jp/blog/2000/05/h150530_01.html

まず、このドキュメント自体が

学校給食における食事内容について(平成20年10月23日)
20文科ス第754号
平成20年10月23日
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/syokuiku/08110511.htm

によって廃止されていることを指摘しておいてもいいだろうと思う。

さて、次はその内容である。
本当に、「……牛乳は不要と書かれた」のかどうか?

まず、平成15年版には、以下のような記述がある。

> 1 学校給食の栄養所要量の基準について
> <中略>
> (3) 今回の栄養所要量の基準の改訂についての基本的な考え方は次のとおりである。
> <中略>
> ビタミンB2は牛乳を飲用することにより確保できるため40%としたこと。

> 2 学校給食における食品構成について
> (2) 牛乳については、児童生徒等のカルシウム摂取に効果的であるため、その飲用に努めること。
>     なお、家庭の食事においてカルシウムの摂取が不足している地域にあっては、積極的に調理
>    用牛乳の使用や乳製品の使用に努めること。

これは、むしろ、牛乳を摂取することを前提とした記述ではなかろうか。
では、新しい文書である平成20年版ではどうか?

> 1 学校給食摂取基準について
> <中略>
> 児童生徒等の嗜好及び学校給食においてカルシウムの供給源としての牛乳が通常毎日提供されている
> こと及び食生活等実態調査結果などを勘案すると、基準値は現行程度が適切と考えられる。よって、
> 食事摂取基準の推奨量(1日)の50パーセントを基準値とした。
> <中略>
> ビタミンB2についても牛乳1本(200ミリリットル)をつけると1日の推奨量の40パーセント程度となる
> ことから、食事摂取基準(1日)の40パーセントとした。
> <中略>
> さらに、独立行政法人日本スポーツ振興センターが実施した「児童生徒の食事状況調査」によれば、
> 学校給食のない日はカルシウム不足が顕著であり、カルシウム摂取に効果的である牛乳等についての
> 使用に配慮すること。なお、家庭の食事においてカルシウムの摂取が不足している地域にあっては、
> 積極的に牛乳、調理用牛乳、乳製品、小魚等についての使用に配慮すること。

これまた、学校給食には牛乳ありきの文章ではないか?

これについては、平成15年のものから、「標準食品構成表」がなくなっている、故に、給食に置けうる牛乳の量は規定がなくなった」ということらしい。
確かに、この主張は正しい。牛乳がなくても給食は成立するのだ。
が、この文章を根拠に「牛乳はいらないと判断された」というのは、正しい判断ではなかろう。
それでも、「いらないと判断された」は、まだ、正しいともいえる。
*この文書を根拠* にした、「牛乳を減らす動きにある」「減らすべきである」という主張は明らかに間違っている。

最後に、ここで取り上げたページには、もう一つ奇妙な主張がある。

> 動脈硬化のリスクを高める飽和脂肪酸が、牛乳1リットル中にバター大さじ4杯分も含まれています。
たとえば、http://www.eiyoukeisan.com/calorie/nut_list/fatty_acid.html によれば、「特濃」でも、2.27% とのことで、
 これを採用すれば、1リットル中おおむね、23g。
 バター大さじ1杯は15gよりは少なくて、少なく見積もると13g。その4杯分は、52g。

これも出典がほしいところではあるが、さらに、しかもその直後に、

> 『健康ビジネスで成功を手にする方法』(ポール・ゼイン・ピルツァー著・私には夢がある・P.150)には
> コップ一杯の牛乳は四九パーセントが脂肪

と書かれている旨主張される。49%が脂肪なら、1リットルのうち、490gは脂肪である。
厳密に言えば、前者は「飽和脂肪酸」後者は「脂肪」なので、脂肪の方が多いこと自体はありうる。ただし、脂肪の総量490gに対して、飽和脂肪酸が大さじ4杯に相当する、52gなら、「飽和脂肪酸のかたまり」というのは無理な主張であろう。

ちなみに、手元にある牛乳パッケージには、「乳脂肪分 3.8%」と記されている。
普通牛乳の場合、飽和脂肪酸は2.33%らしいので、脂肪全体が3.8%というのは妥当であろう。
posted by 麻野なぎ at 21:36 | 雑感
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